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学会全国大会のオンラインでの試行開催の運用メモ

0/03/01

学会全国大会のオンラインでの試行開催の運用メモ

日本教育工学会2020年度春季大会実行委員会(信州大学)

 2月29日ー3月1日と,日本教育工学会の2020年春季全国大会を信州大学教育学部にて開催する予定だったが,新型コロナウィルス対応で,公式には中止,オンラインで試行開始を行った。前年度までは年1回の全国大会で1000人以上の大きな大会であったが,今年度より大会のコンパクト化を目指し,2回の大会にわけることになった。秋季大会はポスタ発表のみ,春季大会は口頭発表のみになった。それでも春季大会200件以上,数百人の来場が予定された。現地の実行委員会でも短期間でのオンライン開催への意思決定から準備,オンラインシステムの運用を行わざるをえなかったが,いくつか課題は生じたたものの,研究発表からシンポジウム,さらには懇親会までほぼスムーズに運営することができた。
https://www.jset.gr.jp/s-taikai01/

  ここに示した内容は,既に積極的にオンラインでの発表等を活用されている学会や研究会には自明のことがほとんどかとも思われるが,これから類似の取り組みを始めようとする他学会や研究会等の多少なりとも参考になればと,関連資料含め公開をする。実際に,遠隔会議や遠隔授業の実践の経験が比較的豊富な我々スタッフも,学会の大会をそのままオンライン化してみたところ,通常の遠隔会議や遠隔授業とは異なる配慮点等があることに気がついた。もしより良いTipsや運用アイデアをお持ちの方がいれば,是非お伝えいただくと共に,多くの皆さんに共有いただければ幸いである。

1.意思決定
2.zoom契約
3.事前準備
4.当日運用
5.まとめ

更新履歴 複数のお問い合わせをいただいたので,順次更新をした。
2020/03/04 参加者へのアナウンスを追記 こちら
2020/03/03 資料の基ファイルをダウンロード可能に こちら

1.意思決定

 新型コロナウィルスの感染拡大で状況がどんどん変化する中で,大会の企画委員会や執行部とも相談しながら,対応を検討した。最終的に学会長の素早い判断,決裁により,公式には中止,試行的にオンラインでの開催を試行する決定に至った。この辺りはトップの意思決定で一気に進めることが肝要であると考える。オンライン開催は初めての試みであり,様々なトラブルも予想されることから,あくまでも試行という位置づけにすることにした。
 これにより,学会としての発表の扱いや支払いなどは以下のように決定された。
https://www.jset.gr.jp/news/news_oth_200225.html

・中止が公式に決定されましたので、論文集に掲載されている発表は「発表をしたと認める」。
・参加費は返金せず「大会論文集ならびに大会準備諸経費」として新たに領収書を発行。
・会場でお渡しする予定であった大会プログラムとともに「大会論文集ならびに大会準備諸経費」領収書を,後日郵送。
・オンライン全国大会に参加するための情報は,大会論文集事前ダウンロードIDによりアクセスできるサイトに掲載。
・事前に懇親会費をお支払いいただいた方には,「次年度以降の年会費に振替(会員の方向け)」「2020年秋季全国大会の懇親会へ振替」「返金」を申込者に選択。
・当日の参加受付は無しだが,「事前申込みと同額の参加費」をオンラインでお支払いいただく参加登録を実施。「支払い済みの方」と同様,プログラム・領収書郵送や論文集ダウンロードおよびオンライン全国大会参加のためのIDを発行。

2.zoom契約

 オンラインでのテレビ会議システムには,運用実績からzoomを選択。契約は,1会議で300人まで入れるビジネスプランを選択(大会のみの使用なので月払いで大会終了後解約)した。
https://zoom.us/pricing
 契約方法は,必要な会議室分のアカウントを契約する形とⅠアカウント契約で,契約後に使用ホスト数を追加する形がある。どちらも結局ホストのメールアドレスとパスワードのセットが必要になるが,後者の契約後の使用ホスト追加の形が,支払いが1カ所で済み楽である。 最終的にⅠアカウント+13ホスト(1ホストは予備で,打ち合わせ等に使用)で契約した。
参考 zoom アカデミージャパン https://zoomy.info/seminars_at_the_same_time/
上記サイトは,zoomの詳細な説明等示されているので,参考になる。今後,こうした資料やまとめサイトは,遠隔会議や遠隔授業の拡大と共に増加してくると考えられる。適宜ネット上をチェックされるとよい。https://zoomy.info/zoom_perfect_manual/

3.事前準備

3.1 ミーティング設定
 各ホストの設定をするために,メールアドレスとパスワードのセットを作成した。googleのグループ設定でメーリングリストをホスト数分作成し,共通のパスワードで設定した。なお,メール配信はWebで読む形にしておかないと,登録者に多量のメールが届くことになる。動かし出してからそのことに気がつき,Webのみに切り替えを行った。
  基本設定は以下のようにした。
・URL固定にするために,ミーティングIDは個人IDとする
・ビデオはオン,音声はミュート
・ホストの前の参加を有効
・自動記録はしない(発表者が発表前に記録や撮影,録音の許諾内容を示すようにした)

プロフィールを対応する会場名にして,参加者に明示的にした。

3.2 発表とのリンク設定

 基本設定ができたところで,次の課題は複数ある発表会場とミーティングの紐付けである。元々オンラインの開催を予定していなかったので,通常のプログラムのファイルしかなかった。そこで限られた時間で効率的に実現するために,2日間のプログラムのPDFファイルの会場名に対応するミーティングのURLを埋め込むと共に,明示的にするためにマーカーで黄色く塗った。また,参加費を支払った方のためのサービスのため,URL拡散についての注意事項を付記した。

  PDFの編集ソフトでこの作業をおこなった。これは直感的かつ制作も短時間で良い方法であったが,Webサイトに実装したところ,iPadでは,PDFからのリンクがうまくいかない(一度ダウンロードかつ有料のPDFリーダーの使用が必要)ことが判明した。そこで会場一覧のページを別途作成した。このページもPDFをHTML化して作ったが,余分なタグがあまりにも多かったので結局新規に作成をした。これは各会場を行き来できるということで,参加者からの評価が大変高い情報提示となった。

  オンラインのガイドとなるトップページには,初めてzoomを使う方のことも考慮し,zoomのテスト接続サイトおよび作成した参加者資料へのリンクをつけた。これら情報は,学会公式サイトとは別に(土日で学会サイトを委託している業者が対応できないこと等の判断),リアル会場そのままに,附属次世代型学び研究開発センターのWebサイトに置くこととした。不測の事態の対応のためにも,当日適宜書き換えられるWebサイトに情報を置いておくことは必要であろう。

 ※追記 複数お問い合わせいただいたので,zoomの接続テストサイトへのリンクを追加。 https://zoom.us/test

3.3 サポート体制準備

 各会場毎に,1名ずつ学生スタッフを割り当て,担当した。各学生は,zoomによるテレビ会議や遠隔授業などの経験を有する学部・院生であった。
全体で発表セッションをシミュレートしてみたところ,いくつかの留意点がわかった。特に座長の方がzoomにまだ慣れていない場合も考慮し,最初に会場係がガイドするようにした。研究発表をシミュレートしてみた際に課題となったのが,時間計時のベル音であった。検討の結果,手軽な方法として,座長に別のスマホかタブレットで計時,アナウンスしてもらうということにした。今後zoomの機能,あるいはプラグイン等で組み込まれるといいのかもしれない。
これら進行方法を以下のようにまとめた

  参考:会場係発表セッションの進行メモ https://cril-shinshu-u.info/200JSET_room.pdf

 各会場担当は,ネットワークの負荷分散をするために,1部屋4会場=4人程度とした。各学生はマイク付きイヤホンを用い,相互の音声の影響が出ないようにした。 次ぎに参加者向けの資料を準備した。zoomの使い方に慣れていない方も多数いることを想定し,参加者の確認方法や発言の仕方,さらに発表者の画面共有の仕方等をまとめて以下に共有した。
 ここでもPCとiPadで表示位置等が異なるので,その両者を明示した。また,発表者が画面共有する際,動画を使用する場合はコンピュータの音声共有のチェックをすること等を示した。
 ※参加者の皆様のzoomの使い方 https://cril-shinshu-u.info/zoom.pdf
  以上の資料はすべてクリエイティブコモンズライセンスで,改変等も可能な形として公開をした。

※追記

問い合わせを複数いただいたので,元ファイルを以下にアップしました。適宜利用,改変ください。

 質疑をどのようにするかも検討したが,個別発表セッションは手を揚げる機能を使い,座長が指名。全体会やシンポジウムなど,人数が多いところはその確認が大変になるので,チャットで流してもらうように使い分けた。なお,チャットの場合は,各ユーザーがミーティングに参加した以後の書き込みしか表示されない点についての注意が必要である(全体アナウンスへの活用時等)
  シンポジウムなどは,参加申し込みをされていない方にも無料で開放するためにストリーミング配信を行った。以下のように配信設定が可能であるが,メジャー度からYouTubeライブを選択した。 YouTubeライブの配信のURLは,ミーティングが立ち上がらないと確定しないため,ストリーミングへのガイドページを開始前に設定する必要がある

  なお,ストリーミングへの接続の前にGoogleフォームでアンケートで視聴者の簡単な属性および地域を回答いただくようにした。また,ストリーミングのコメント欄に,視聴の感想や意見のフィードバックの依頼や回答のURLと共に記載した,

3.4 参加者へのアナウンス

オンラインの試行再開後に,発表者のオンラインでの発表の意思確認,座長のオンラインでの対応の可否などを大会企画委員会側で確認すると共に,以下のようなアナウンスが参加者にメール配信された。
————————–
オンライン全国大会での発表を希望された場合,以下のことに同意したこととなりますので,ご確認の上,ご希望の有無をお出し下さい。
・万一,オンライン全国大会での発表に際してトラブル等が生じた場合は,日本教育工学会ではその責任を負いません。
特に,提示するスライド内やその他関連ファイルでの,著作権,肖像権,個人情報等の取扱いに十分ご注意ください。
・オンライン全国大会での発表に際し,日本教育工学会では,コンピュータの操作,インターネット接続、映像・音声等のトラブルの対応はできません。技術サポーターは待機していますが,基本的にはご自身での解決をお願いします。
・オンライン全国大会での発表は,状況等によっては中止(座長による当該発表の中止等の判断も含む)もありうることをご承知おきください。
・オンライン全国大会での発表に要する通信料等は,発表者の自己負担とします。
————————–

特に,オンラインの場合は,公衆送信に当たるため,上記著作権等の配慮が必要となる。この点は,以下の情報処理学会のアナウンスが,より明確に示しているので,参考にされるとよい。
【重要】第82回全国大会の現地開催中止とオンライン開催について
https://www.ipsj.or.jp/event/taikai/82/notify20200225.html

4.当日運用

4.1 研究発表

 オンラインでの発表件数は,全発表数の4割強だった。当然,セッション毎にオンラインの発表数に違いが生じるが,各発表を行き来する方のことを考え,プログラム通りとした。間が空いた場合は,会場係がスライドで情報を提示すると共に,適宜参加者でトークするなど,臨機応変な対応を試みた。

 座長の中には,プログラムに手書きで発表するプログラムや時間等を手書きで示すなど,臨機応変な情報提供をされていた方やや,タイマーをiPadで表示し,それを映すなどの工夫されていた方がおられた。素晴らしい。

 また,これら情報共有もTwitterなどでなされていった。
 ハッシュタグ#jset2020s https://twitter.com/hashtag/jset2020s?src=hash

 公開・共有されたTipsやコメント例
・iPadタイマーをビデオで表示,事前に画面共有でインストラクションを表示など(特に挙手ボタンの場所に迷う人もいるようなので必要そう)knakaya@knky081116
・発言者がスピーカーをオンにしていると、スピーカーの音をマイクが拾ってしまい、ハウリングが起きやすくなりますね。発表者はイヤフォン(ヘッドセット)必須かと。藤川大祐@daisukef
・【画面にタイマーなどを出すときは】反転して見えていても、参加者には読めるように映っているようです。気になる場合は、「ビデオの開始/停止」ボタン右の△ボタン→ビデオ設定→ビデオ→マイビデオをミラーリングします のチェックをオフにすると、こんな感じで反転せずに見られます。Mio Tsubakimoto@mtkyf
・結果論ではありますが、オンライン開催によって参加できる人が増えた側面はあるので、今後もぜひ何らかの形でオンライン実施は進めていってもらいたいです。いろいろな側面から、学会という知の在り方をICTを活用してアップデートしていく取組みになると思います。KobayashiShota@KobayashiShot4
 こうしたTipsの共有をしながら,運営を更新していくというスタイルもこれまでにないものであった。現地スタッフでも公式にTwitterでの関連情報の発信や共有を行っておくとさらに効果的であったといえる。

  各ミーティングをモニタリングするために,タブレットを並べてそれぞれログインした。ちょっとしたモニタールームになると共に,全体を見ながら興味深い研究にフォーカスするのは面白いと感じる。これはリアルな研究発表会場ではできない対応である。各参加者も同様に複数端末でモニタリングしながら,興味のある研究発表を選択していくという使い方も勧められる。

  発表の進行内で,座長が接続できない,あるいはPC等のトラブルで落ちてしまうということが発生した。その際には担当学生が座長の代わりを務めるなど,臨機応変に対応できていた。また,当初希望していなかったが,当日発表も飛び込みで受け付けた。 ざっと各発表セッションを概観したり意見を集めていくと,zoomの発表では,リアルな発表に比べ質問等が出にくいのではという声があった。慣れの問題もあるかとは考えられるが,この点を考慮し,座長の先生が積極的に指名したりする等の配慮も必要かもしれない。 zoomでの研究発表を進めていく中でスタッフが気がついた点を,他にも記しておく。
・手持ちのパソコンで見る分,スライドの見えやすさの格差が解消されるのは,1つのメリットである。
・通常,発表者となっている場合,そのセッション時に会場教室を離れるのは困難であるが,座長に断りを入れ,他のセッションで聞きたかった発表をチェックし,また戻ることを行った。そもそも中座することの障壁が低いシステムなので,どの程度許容するかは検討の余地はある。
・穴の空いた発表を繰り上げそうだった時があった。これは周知確認が必要である。
・スライド共有やマイク音声のトラブルに関しては,それこそシンポジウムでも触れられたように事前のチェックが大事。
・Zoomのバーチャル背景など,「方法が分かれば私もやってみたい!」という人はいると思う。「必須ではないが使えると面白そうな機能」も示すと参考になるのでは。
・通常の口頭発表だと,セッション終了後に改めて談話したりして交流を深めることもあるが,参観した範囲ではあまりそういう場面は見られなかった。そういう場をどのように実現,あるいは保証するかは検討する余地がある。

4.2 全体会・シンポジウム等

  司会の把握しやすさから,質疑はチャットで行うこととした。SIGセッションでは14のSIGから各2分半の程度の報告をいただくことになったが,zoomの切り替え等で手間がかかることを考慮し,事前にスライドにナレーションを入れた動画を作成いただき,取りまとめの先生が1本化して流す形となった。準備に若干手間がかかるが,確実に進められる方法であった。
 全体会やシンポジウムは以下のように切り分けた。一般無料公開としたストリーミングは,人数制限を気にせず使えるので良い選択ではないだろうか。

・事前薦申込者=zoomのミーティング(質疑に参加可能)
・一般参加者(無料公開)=YouTube Libeのストリーミング(視聴のみ)
  zoomのミーティングとyoutube Liveのストリーミングとのタイムラグは,今回の環境だと30秒程度生じていた。ストリーミングでもチャットで盛り上がっていた。質疑はzoomのチャットでとしていたが,ストリーミングのチャットにもいろいろな書き込みが流れていった。 ストリーミング視聴者は,会員が43%に対し,非会員が56%と,一般公開をした効果が一定あったといえる。また,視聴者の地域も北海道から沖縄まで,ほぼ全都道府県に渡り,海外からのアクセスも複数あった。オンラインでの開催だからこそのメリットでもあろう。
 ストリーミングを視聴された方からのフィードバックをいくつか掲載させていただく。
・解像度を高めに設定する必要があった。低解像度では,スライド文字がつぶれやすい。音声については,おおむね聴きやすかったです(ごく一部、ハウリングがあった)
・感謝しかありません。SIGの説明も分かりやすく,本当に助かりました。随分と教育工学会にはご無沙汰しており,情勢が分からなかったので,Youtubeのチャットでも非常に勉強になりました。どうもありがとうございました。次回以降も是非,Zoom開催を希望します。学会参加費というかZoom費で参加という路線も検討していただけると嬉しいです。
・普段,参加する機会がない学部生には無料で視聴できる機会が一部のセッションであるだけでも,今後関わっていく動機づけになるかもと思い,ありがたかったです。会員費や交通費を気軽に出せない人もいると思うので。
・ありがとうございました.少し参加できない時間が有る場合でも,ストリーミング再生なので一時停止したり,後で見ることができるようなセッションだったのでありがたかったです.一方で,私が確認していなかっただけかもしれませんが,ライブ配信終了後にも,消さずに残しておくかどうかを予め知っておきたかったです.

  無料公開とした点は,大変好評であった。ライブ配信後のデータの扱いについては最初に確認しておく必要がある。

4.3 懇親会

 オンラインで懇親会も開催した。当初は,通常の挨拶,乾杯で終わり,後はそれぞれに分かれようという予定であった。接続数は40ちょっと(リアルな懇親会自体は120名ほどで準備していた)だったが,複数名で参加した皆さんも多かったので総数はそれなりの参加者になった。全国各地からのアクセスがあった。 司会の配慮で,乾杯後,各参加者に自己紹介やコメントを順番に求めていき盛り上がった。こうした楽しみ方はオンラインならではである。なお,参加者へのアナウンスはBYOD(Device以外のD)とした。人数が多くなれば,全体挨拶後は各自自分たちでzoomのミーティングを設定し,小グループに分かれる等でもよいかもしれない。今後,類似の取り組みを考えられる学会や研究会には,研究発表と合わせ,こうしたオンラインの懇親会の企画をお勧めしておく。

5.まとめ

 突発的な出来事ではあったが,思いがけずオンラインの開催を試行でき,貴重な経験をすることができた。
※ご参加された方からのレポート例

向後千春:日本教育工学会のZoomによるオンライン大会は壁を突破した
https://note.com/kogolab/n/n01fdaee5de43?fbclid=IwAR2GT0XYmMKQLVo9lzReSTVXKz-rZnA_y3ljwZ6_81uNGiQO7lAdYnnEVS8

こばやししょうた:日本教育工学会のオンライン春季大会に参加しました
https://note.com/taikomegane/n/n463977a57e91

 上記ページでも書いていただいているように,突然の変更という状況を鑑みれば,成功と言ってよい結果ではないかと考えている。 比較的うまくいった要因は,以下の4点ではないかと考えられる。

1)参加者に遠隔の会議や授業などの経験者が多かったこと
 教育工学の学会ということから,ICTやテクノロジーとは関係が薄いと考えられる領域の層よりも,遠隔の経験者や,採用したzoomの経験者が多かったのではないかと推定される。もちろん局所的なトラブルはあったが,大きな混乱がなかったのは,このお陰であることは確かであろう。しかし,今回のコロナ対応を通して,テレワークの一般化や遠隔教育についての情報の拡散等に伴い,なじみが少ない領域の方々であっても,こうした障壁は一気に下がっていくことが期待される。

2)事前のインストラクションのガイド等がうまく機能したこと
 コンパクトにまとめた説明資料やテストサイトへの誘導,プログラムや会場一覧とのミーティングの結びつけによるガイドに対してのユーザビリティの評価が高かった。今後試みる学会や研究会の参考になれば幸いである。同時に,この機会でテレワークやオンライン学習が一気に進むことから,関連する資料等もどんどん出てくることが想定される。こうした知見をシェアすることが必要だと感じる。

3)質の高いサポートスタッフ
 自画自賛になってしまい恐縮であるが,円滑な運営や突発的なトラブルにもうまく対応できた学生スタッフの力には,教員一同も感心していた.他大学の先生方からも複数のお褒めの言葉をいただき,恐縮であった。まだ教育実習も行っていない学部2年生のスタッフが,座長がうまく接続できていないことを確認するとすぐに代わりを務め進行をするなど,自大学の学生ながらその対応力には驚いた。多くの学生がzoomの使用経験があることと同時に,これまで本学部が実践,蓄積してきたICT活用指導力の教育成果でもあると言ってよいだろう。もちろん,こうした学生らのようなサポートスタッフがいない場合でも,リアルにスタッフが集まる必要はないのであるから,運営側のマンパワーに応じて経験値を持つボランティアのサポートスタッフを募る等すれば,解決できるとは考えられる。

4)新しい取り組みへの挑戦
 運営スタッフ側の最大のモチベーションは,「まだやったことがない」という新たな取り組みへの挑戦であった。これに支えられ,ほとんど一堂に会することなくネット上で相互に分担しながら,大変短期間に準備を進められることができた。

 上記要因で順調な運用ができたが,もちろん前述のように,リアルの研究発表会場と違い,対面でないため質疑が進まない,出ないといったレスポンスの悪さなどの課題もある。これは司会進行の仕方などでかなりカバーができる部分もあるし,一定慣れの問題であるだろう。また,これまでの遠隔授業等の研究の知見を見れば,参考になる知見やノウハウも出てくるのではないだろうか。
 一方,オンラインの学会ならではの柔軟な参加のメリット等も見いだされてきた。これらことから,リアルな研究大会の中にあえてオンラインのセッションを設定し,諸事情で参加できない方も参加できるような取り組みもあってもよいのかもしれない。また,遠隔教育と共に,遠隔学会や研究会の知見自体も一つの興味深い教育工学の研究テーマにもなり得るのではないかとも感じている。今後はzoomのログや参加者のフィードバック等の詳細な分析行い,学術的な知見としてもまとめることができたらと考えている。
 最後に付記しておくことが,運営や片付け負荷の劇的な軽減である。オンラインでの開催ということで事前準備や調整にはそれなりに手がかかったが,当日運営や片付けが大変楽であった。部屋や端末,ついでに湯茶も片付けた段階で以上終わり。あまりの簡単さに一同拍子抜けであった。従来の学会の大会運営業務を考えるとパラダイムチェンジとも言える驚くべきことであったといえる。
  以上,思わぬ形でオンラインでの学会の全国大会での運営をまとめてみた。冒頭でも述べたように,本レポートがこれから類似の取り組みを試みる諸学会や研究会の多少なりとも参考になれば幸いである。

大会実行委員会
委員長    村松 浩幸 (信州大学)
副委員長 島田 英昭 (信州大学)
委員     東原 義訓 (信州大学)
           藤崎 聖也 (信州大学)
           森下 孟    (信州大学)
           谷塚 光典 (信州大学)

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